日本知財学会 知財ビジネス分科会・・・第5回研究会
・ 日時:2004年3月13日
・ 場所:東京大学先端科学技術研究センター4号館
■テーマ:「特許権証券化と今後の知的財産ファイナンス」
■基調講演(60分) 「技術(特許)の価値評価 〜経済的価値評価の必要性を考える〜 」
(株) パテント・ファイナンス・コンサルティング 日野 慎二 様
特許権の証券化について、1)特許権担保融資との相違点、2)休眠特許は証券化に適さない点、3)特許権の価値評価の手法は確立していない点、を軸に説明して頂いた後、技術系中小・ベンチャー企業が苦労されている試作品開発および商品化開発時の資金調達の新しい方法として、開発投資証券化についてご説明頂きました。
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1.特許権の証券化
特許証券化と特許権担保融資は基本的に異なるものである。
−特許権担保融資においては特許保有会社の財務内容等の判断を踏まえて特許権を付加的な価値(担保)として融資を判断するのに対し、特許権証券化においてはライセンス 収入の価値判断と、将来(売却時)の価値判断を行って投融資を判断する。証券化は特 許保有会社のリスクが切り離されているのも特徴である。
−ジャパン・デジタル・コンテンツ(JDC)がアレンジャーとなった特許権証券化の国内第一号事例をご紹介。また、この事例を用いて証券化のプロセスをご説明。
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特許権証券化は休眠特許を資金化する仕組みではなく、実際にCFを生む特許を資金化する仕組みである。
−CFの確実性が高いほど、また、事業に占める特許の複雑性が低いほど証券化の対象としやすい。しかし、こういった特許は絶対数が少ない。
−休眠特許はCFが見えない。
−電機業界のようにクロスライセンスの慣行がある業界の特許は、権利関係が複雑になっていることがあり、証券化の対象として適当でない場合がある。
−ベンチャー企業や大学の特許は、構成はシンプルであるがCFの見込みが立たないものが多い。
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投融資を行う際の特許権の価値評価手法は確立されていない。
−ライセンシーの倒産リスク、技術・特許の陳腐化リスク、特許の流動性リスク、特許の無効化リスクなど特許権証券化に独特の点があるため金融機関だけでは評価は難しい。
−知財独特の部分(無効化リスクなど)については知財の人間の関与が必要であろう。 |
2.今後の知的財産ファイナンス(開発投資ファイナンス)
−開発投資ファイナンスは、特許権ではなく、ある特定の開発・プロダクトに対するファイナンスである。
−アイデア・設計段階は自己資金や助成金により資金手当てをすることができ、量産化・ライセンス段階は銀行融資や特許権証券化により資金手当てをすることができるが、開発段階において資金が難しい状況が生じる(開発資金のデスバレー)。開発資金証券化はこの段階の資金調達に適したスキームではないだろうか。
−開発投資証券化のステップは、 1) 商品のモデリング、開発・製造・販売戦略の企画 2) 販売先、製造先の選定、
3) 投資家の条件・募集、という流れである。
−ソフトウエアに関する特許権及び著作権を保有する中小企業のソフトウエア開発に関して進行中の開発投資証券化案件の事例紹介。
−開発投資証券化における評価の特色として、製品完成まではマイナスの評価であること、特許権の証券化と比較して開発リスクが新たに出てくる。
−開発投資証券化と株式とを比較すると、開発投資証券化は流動化が低い、資金使途が技術・特許事業化に限定されているという特徴がある。また、投資家による株式の取得がないので資金調達サイドに経営権の問題が発生しない。
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3.まとめ(事業会社における知財ファイナンスの意義
−資金調達 :大企業は知財以外の資金調達の方が有利なので、知財による資金調達のニーズが低い。ベンチャー企業にとっての意義。
−リスク分散:開発投資を前倒しで回収することができるのでリスク分散の効果が得られる。特に大企業にとっての意義。
−IR:バランスシートに載っていない知財権を売却することで財務内容を改善する。特に大企業にとっての意義。
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会場からの質問:
Q.グリーンシートでは1億円ぐらいから資金調達が可能だが、開発投資証券化はもっと小額で可能か?
A.証券化のスキーム作りにはコストがかかる。コストを落とす簡易な証券化の仕組みを利用することにより可能ではないか。
Q.中小企業は特許よりもノウハウを多く所有していると思うが、このノウハウの評価はどのように考えるか?
A.特許権の証券化にはノウハウは入ってこない。ノウハウが事業の一部としてどういったキャッシュを生むかに注目する。つまり、開発投資証券化のひとつの要素としてノウハウを考えるべきである。
Q.開発投資証券化モデルでは特許権はどこに属しているのか?
A.開発段階の特許はSPCに帰属するのが原則。ただし、権利の帰属は留保して専用実施権を設定するというスキームもある。解散後には買い戻すことができる。
Q.流動性が低いのであれば個別の契約でよいのでは?個別契約との違いは何か?
A.かならずしも有価証券の形にしなくとも投資家が資金を提供するスキームを便宜上証券化と名付けた。有価証券を発行することもあるし、そこまで厳密なスキームを採用しないことも可能。マーケットが存在しないので流動性は株式などよりも相対的に低くなる。
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■パネルディスカッション
パネラー:
日野 慎二 さん
田中 康仁 さん (金融機関)
宮津 晃 さん (電気メーカー知財部)
モデレーター:
柴田 英寿 さん(知財ビジネス分科会担当理事・ビジネスIPR共同代表)
パネラーの方の意見に対して随時会場からの意見を受け付けるというインタラクティブな形式でパネルディスカッションを行いました。
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1.基調講演の振り返り
(宮津)
大手企業の知財実務担当の立場で考えると、知財の証券化は他の資金調達手段と比べて、現状、調達コスト面で特にメリットを感じないので、大手企業の資金調達手段として普及しないのではないかと考えている。
IRの面に関しては、13社余りの会社が知的財産報告書の準備を行っているとのことだが、企業サイド(特に知財部)としては経済的価値評価にはネガティブと聞いている。所謂「特許権の価値」はその保有者毎、事業毎によって変わるものであり、絶対的な金額として評価することは難しいと思われる。自らが保有することを前提として試算した特許の価値を知的財産報告書なりで公表すると投資家に誤解される恐れがある。
(田中)
銀行の融資担当の立場から言うと、融資した元本と利息が戻ってくることが大事である。そのため、特許権自体の価値(排他効果等)は見ていなく、特許権から発生するキャッシュフロー(以下:CF)の確からしさを見て融資判断を行っている。特許権の証券化と言っても実際は、SPCが資本金と借入(社債)で調達した資金によって対象特許を買い取る構造で、手段は違うが融資の観点では、特許権担保融資と同じである。
また、特許権の証券化は、特許権を利用した事業のCFの証券化なので、特許権の証券化というよりは売掛債権の証券化といった方が納得できる。開発投資証券化についてはCFが見えにくいので、通常のコーポレートファイナンスと同じように考えられるのではないだろうか。
宮津さんがおっしゃっていた大企業における資金調達ならびにIRの観点については大筋で同意である。
大企業のメリットとしては会計上のメリットが考えられる。現状、特許権は財務会計上、額(簿価)が非常に小さく、実際の経済的価値とかけ離れている。そこで特許権を証券化することで、経済的価値(簿価以上)でキャッシュが入ってくるので、財務会計上の利益が発生する。社債の格付け維持等の理由で当期にどうしても利益を出したい企業にとっては特許権の証券化は有益であろう。
2.ベンチャー企業の例
(田中)
ベンチャー企業が所有する特許権など、将来の見通しが明確でないものに対して融資をすることは難しい。開発資金の証券化で紹介した事例は劣後ローンの引き受けをする第三者(大手企業等)が存在するので、融資側としては安心感を持つことができる。
(会場より)
田中さんの発言中特許権担保融資と特許権の証券化が同じという話があったが、日野氏の説明では両者は明確に区別されている。日野さんとは見方が違うということか?
(田中)
CFが見えているのであれば、キャッシュ自体を見ているという意味で証券化と融資は究極的には同じ。逆に、CFがついていなければ、特許は無価値という意味で両スキームは同じ。
(日野)
特許権の証券化はコーポレートリスクを切り出している点で融資と異なる。
(会場より)
企業がさまざまなオペレーションを行っている中でCFを生んでいるパテントがあるのであれば、資金の使途がはっきりしているので融資ではなく証券化を選択したいが如何お考えか。
(田中)
融資と証券化が同じという先ほどの発言は、特許権者が自ら実施をせずに他者からライセンス収入を得ていていることを前提としたもので、この前提のもとでは特許権が特許権者のオペレーションから切り離されているので両スキームは同じという意味で言った。
具体的には元々の特許保有者が何ら関与せずにロイヤリティのみを得ている場合、特許証券化も特許権担保融資も同じという意味である。万一、対象企業がデフォルトになっても、特許保有者が何ら関与しない特許を担保にとっていれば、対象特許権を差押さえ、その特許から産まれるロイヤリティというキャッシュをもらえるので、債権者としては全く問題が発生しない。
3.評価について
(宮津)
電機業界と医薬・化学業界では事情が違うようだ。電機業界では特許権と事業を切り離すということはありえない。事業が立ち行かなくなる。特許とノウハウが一体となって事業価値につながっている。一方、医薬・化学業界では、特許権は事業と独立して取引されうると聞いている。
(田中)
業界ごとに特許権の感じ方が異なるということであるが、特許権だけでライセンスが実現されることはあるのか?(会場への問いかけ)
(会場)
・医薬についてはある。例えばコーエンボイヤー特許。
・医薬だと周辺特許も含めた形で、特許だけのライセンスはある。
(田中)
そういった事例はあるにしても特許権自体に価値は無いと思う。あくまでCFで判断することになると思う。
(会場)
特許権自体に経済的価値が無いと考えると技術も無価値、事業も無価値ということになるのではないか。
(田中)
資金提供先が特許を保有していることの意味はCFがより確からしいということではないか。融資側の人間は特許をもらっても何もできない。
(会場)
逆にバイオの場合は「特許権がないと事業ができない。」と言う電機業界とは違う印象がある。
(日野)
特許権単体で経済的価値があるかどうかという点では、メンテナンスが大事という印象。ノウハウも含めて管理するなど特許をメンテナンスすることで特許の付加価値は向上する。不動産のたとえで言うと、不動産自体ではCFを生んでいるわけではなく、土地の上にビルを建てたり、テナントを斡旋・管理する人がいたりしてCFが発生する。
4.次世代知財部、金融と技術の接点について
(宮津)
企業知財部は事業への貢献という意味でがんばるのが本来の姿であろう。SPCの保有権利をメンテナンスするなどの業務のアウトソースを受けることは弁護士法の問題もあり、本来の業務と離れるので、実際に行うかどうかは不明である。
本日の研究会のように金融の人間と知財の人間が同席していることだけで大きな進歩と思う。今後は金融の言語と知財の言語が共通化してコミュニケーションが取り易くなるのではないだろうか。
■質疑応答
Q.日野さんが考えている中小企業の支援を行うビジネスのアイデアについて更に知りたい 。
A.
(日野)
特許権は中小企業が保有しているよりも実施能力のある企業が保有している方が価値があると思う。
(宮津)
米国にはライセンス代行会社があるようである。ライセンス収入の3割や4割を受け取る成功報酬ベースのビジネスと聞いている。
Q.他企業からライセンスを受ける場合に、日野氏ご紹介のスキームが大企業にとってメリットがあるのか?
(宮津)
大企業はご紹介のあった証券化スキームは行っておらず、ライセンスを受ける場合には、特許の実施許諾、若しくは買い取りの交渉活動を行っている。会社自体の買収、当該特許に対する有効性の検討を行う場合もある。
Q.大企業が独自にライセンスを受けると較べて日野さんがご紹介されたビジネススキームの優位性は?
(日野)
大企業の現在の行動特性は理解している。ノウハウ管理をアウトソースすることが可能と思う。
(会場)
弁護士法72条が改正になった。ビジネスチャンスが広がると思う。
以上(文責 渡邉/ 村越)
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