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TOP分科会知財会計・経営分科会2003.06.11

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信託知財に関する制度ユーザとしての意見書
2003年6月11日

 現在、特定目的信託の範囲を越えて、「信託知財」の法制度化が検討されております。信託法第4条に知財という資産範囲を明記する。さらには、信託業法の資格・業務範囲の変更(新規参入者の適格審査など)などの規制緩和も焦点になっております。
 また、法制度化のプロセスの中で、省庁間の綱引きが行われているようです。縦割り行政の中での話しですから、放置しておくのも一つの手段なのですが、知財の利用を活性化し、知財経済システムの多様な発展を企画するためには、この時点において、「制度ユーザ」として、何か、意見を述べておいた方が良いのではと考えております。当分科会のコアメンバーとの議論を踏まえ、次のような意見書をまとめました。
 日本知財学会 知財会計・経営分科会 座長 菊池純一(文責)*

問いかけ文:
 知財の持つ特殊性を発揮させて、知財経済システムの価値増殖効果を大きくするには、法体系の一貫性を重視するよりも、産業政策の一環として現場を重視した制度設計が良いのではないか。
 この場合、知財の特殊性として勘案されるべき項目としては、次の3項目がある。信託事業にともなう受益者保護のための規制をどのように組み込むかという論点に加え、知財を基盤とした産業の活性化を目出さした議論が重要ではないか。
1. 知財として扱われる範囲の中に多様な権利範囲があり、信託事業にとどまらず、広く経済社会全体に及ぶ利益相反に対する配慮が必要である。
2. 知財は1物多価(複数価格の同時的存在)の性質があり、その特性を加味した市場形成が必要となる。例えば、一般投資家を対象にした包括的な500億円市場という枠組みには、必ずしも馴染まない。むしろ、特定の知財分野に関する情報開示をベースとして、小口の投資信託を積み重ねることによって、産業活動を活性化するという視座が必要である。
3. 信託知財を管理するための人材が、金融機関の内部に不足している。従って、知財評価の専門サービス事業を展開している者たちと信託事業者の間に、新たな制度枠組みが必要となる。

意見文:
[1] 知財の信託化は必要かつ緊急課題である。

知財の信託化は、現行法に基づく特定目的信託のスキームに代表される知財の流動化、さらに、知財の信託的管理のニーズがある。また、制度ユーザの立場から見て、信託的管理に関しては、少なくとも以下のニーズがある。
1. クロスライセンス等を頻繁に行う大企業グループの特許管理
クロスライセンスにおいては、グループ各社の特許権を一つにまとめた方が有利な条件でライセンス契約を締結可能であり、かつ、締結の手間もグループ企業一括ですむというメリットが認められる。
2. 特許管理ノウハウの乏しい中小企業特許、あるいはTLO等知財の一括管理
特許管理の難しい点は、権利化の際にはどのような範囲のクレームを立てるのか、さらに、権利化後には、ライセンス先や侵害者を発見することなどである。これらについては、中小企業やTLOの人員や資力では、単独で行うことが困難であるので、知財信託会社にさせるメリットがある。
3. ソフトウエアライセンスの倒産隔離
 ソフトウエア開発は多数の著作権を集めて組み合わせる作業の連続である。つまり、ソフトウエアのライセンスに依存してビジネスを行う会社では、ライセンサーの倒産によるライセンスの喪失という大きなリスクを背負いつつビジネスを行うことになり、デューディリジェンスの観点から大きな問題がある。ライセンサーがソフトウエア資産を信託会社に信託譲渡して、信託会社がライセンス管理をすることにすれば、このリスクはヘッジされる。

[2] 知財の特殊性を配慮した法制度にすべきである。
1. 知財の独占排他的な特性から生じる利益相反への配慮
知財は基本的には排他権であり、少なくとも、日本国内においてその知財に関与する者にあまねく影響を及ぼしうる。例えば、ある基盤技術についてなされた特許を信託された者が、その市場への参加者に対して、なりふり構わず権利行使を行うとすれば(いわゆるパテント・エンフォーサーに変身するのであれば)、そのような訴訟リスクによる萎縮効果が市場に生じる。その結果、当該技術については、実施者・開発者がいなくなり、技術の蓄積による産業の発達という特許制度の目的とは相反する結果に陥る。
これは知財が、今まで信託の対象財産とされていた土地等とは全く異なる性格(独占排他的な性格)を有するゆえに生じる現象である。従って、知財信託においては、信託という経済行為において、常に公益と共益と競争の整合性を求める必要がある。
2. 知財管理のノウハウを組織的に整備することが大切
知財を的確に管理するノウハウを有する人材・組織は極めて限定されている。知財(特に特許権)は何かの契機(先行技術の発見、代替技術の開発)をもとに著しく劣化する可能性のある、不安定な性格を有している。この点を勘案して、信託業者の資格要件等の設定や認定制度の創設など、法的・制度的な手当をする必要がある。
3. 受託者責任の明確化することが大切
信託知財が、無効と判断される、あるいは、侵害訴訟に巻き込まれるリスクは無視できない。受託者の責任の範囲、あるいは、管理基準等を明確化する必要がある。さらに、信託知財の不良債権を処理するための保険機構についても検討する必要がある。
4. 第三者対抗要件を確保すること
信託知財として特許出願前の「特許を受ける権利」及び「ノウハウ」、「一部のTRP(有形研究財産)」には公示手段がない。第三者対抗要件については、既存法の中で対処できる部分もあるが、検討課題の一つである。
5. 信託知財に関する税務上の特別措置
真正取引の要件を具備することで税務が発生する。しかし、知財の多くは、財務会計上、「ゼロ円」として扱われてきた。一元的管理あるいは、国税庁通達に準拠した導管体として信託が活用できるのであれば、帳簿価額のまま、移転することができる。しかし、資産として認定するということは、単なるコスト要因の損金としてではなく、プロフィット要因としての「みなし評価」が行われていることになる。知識社会の入り口における信託知財の潜在市場は大きいはずであるが、例えば、「知財評価減税」などの景気刺激策を併用することによる更なる展開も考えられる。

[3]制度ユーザが利用することのできる体系であることを望む。
 知財は、経済成長の源泉となる資産である。財政、金融、産業政策という枠組みが互いに連携することによって、その社会的成果(知財のアウトカム)がより一層豊かなものとなり、多くの人々の生活を強めることができるものと考える。しかしながら、知財による価値形成プロセスは発展途上にあり、未熟な存在である。知財政策の体系化は未だなされていない。そのような環境の中で、知財の活用形態としての信託知財は、多額の不良債権を抱える日本経済にとって救世主的存在として期待できるものである。そして、その信託知財を、多様な社会的成果をもたらす譲渡可能資産として育てていく必要がある。
 信託知財の利用スキームを定める制度体系は、単に、法体系の統一性、あるいは、省庁間の管轄範囲の視座から検討するのではなく、制度を利用するユーザの立場に立脚した検討が積み重ねられることが望ましい。



*この議論に、一個人として、参加してくださった方々。石田正泰(日本知財学会理事、凸版印刷株式会社 常務取締役)、鮫島他正洋(松尾総合法律事務所 弁護士・弁理士)、二村隆章(新日本監査法人 公認会計士)、長谷部智一郎(監査法人トーマツ 公認会計士)、大津山秀樹(ピー・エル・エックス?代表取締役社長)、横田慎二(文部科学省科学技術政策研究所主任研究官)、杉光一成(金沢工業大学教授)、渡邊俊也(東京大学教授)、浜田良樹(東北大学講師)、その他諾名の専門家の方々。

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