1.提言要旨
先端技術にかかわる知的財産の紛争処理を迅速かつ適切に進めるためには、技術判事を導入することを早期に検討するべきである。現在、技術系の背景をもつ裁判官は全国に10人弱しかおらず、また判事補10年後、判事になるという制度を考えれば、まず3年以内に、技術に強い経験豊かな弁護士を裁判官に積極登用して、技術判事制度に移行すべきである。
しかし一方知財訴訟の利用者(企業)の意見としては「中立的な立場で、技術の分かる人を一刻も早く法廷に入れて欲しい」との意見が強いことを考慮し、暫定的な措置として、技術系専門家による専門委員制度も意義のあるものと考え、導入を支持するとともに、同制度が導入される際には、日本知財学会として各学術分野の学会に協力を求め、専門委員の推薦に関して協力する用意があることを表明する。
2.提言の背景
今後増加することが予想される先端技術にかかわる知的財産に関する紛争を迅速かつ適切に処理することは、知的財産立国を目指す我が国においてきわめて重要かつ火急の課題である。特に産業界からは信頼性が高くかつ迅速な知的財産にかかわる紛争処理を可能とする制度を早急に整備することが求められており、特に先端科学技術がかかわる事案の紛争処理に際しては、企業によっては我が国の現体制の知的財産にかかわる裁判制度を信頼することができず、海外における提訴を選択することもしばしば行われており、知的財産にかかわる司法の空洞化を招きかねない深刻な事態であると認識している。
理工系の研究者・技術者と企業人が主体で設立された日本知財学会においては、この問題に答える要請と責務があると考えている。日本知財学会ではこの問題に関して理事会などによる意見交換を行い、また問題を解決するために科学技術の専門家の知見を紛争処理過程に活用する仕組みの整備を早急に行うべきであり、その際最も望ましい姿として技術系の判事を積極的に登用する制度を早期に導入することであるとの結論を得た。
しかしながら議論の過程で、当事者である企業側の立場の要請として、すでに空洞化を招いているこの問題を一刻も早く改善するために、中立的な科学技術専門家を専門委員として任用し、知的財産訴訟の現場に技術的知見を導入することは一定の効果を期待できることから、専門委員制度に関しても学会として協力するべきであるとの意見が示された。日本知財学会としてはこの両論について議論を行い、冒頭に示した提言をまとめるにいたった。
理工系の研究者にとって専門委員として非常勤の立場で不定期に裁判に協力することは、現段階では本務の教育・研究に与える影響も大きく、専門委員としての活動が、学術業績にも評価されることがないため、研究者個人にとって決して歓迎できるものではない。しかも専門委員制度においては、最終的な判断を行う判事自身に技術的な知見が不足している問題を改善するものではない。したがってこの問題の最終的な解決はあくまで技術判事の導入である。しかし技術判事制度の導入することを前提として、専門委員制度を暫定的に導入する場合には、早急な対応を求める産業界の強い要請に答えるべく、日本知財学会としても、各分野の学会に協力を呼びかけ、専門委員の推薦に協力することを表明する。 |